「あいつは不器用だから・・・」
昔は大好きだった父。
キャッチボールをよくしてくれた。
田舎で同年代の友達がいない僕にとって、一番楽しい時間だった。
でもいつしか疎遠になっていった。
油くさい作業着で参観日に来る父が恥ずかしかった。
無口で不器用な性格のせいだろう。
母も出て行った。
僕は父と話さなくなった。
僕には夢があった。
東京に行って役者になる。
父は反対したが、僕は聞かなかった。
今僕は印刷会社で働いている。
父とはもう20年も会っていない。
そんなとき、父の妹からの電話が鳴った。
父が死んだ。
おばさんからオレンジ色のファイルを渡された。
受取人に私の名前があった。
父は私のことを「あいつは不器用だから・・・」と言っていたらしい。
僕は涙が止まらなかった。
父の想いを、僕の息子にも届けたい。
今、もう一冊のファイルが僕のそばにある。