母は「覚えてたんだね」と言いながら 少し泣いていた
母がガンになった。
そんな知らせを受けて、家族に心配な日々が続いていたある日、
仕事中の僕の携帯に父からの電話が鳴った。
手をつけていた仕事をやめ、すぐにうちに帰った。
うちに帰ると、母に以前「何かあったら見て」と言われていたものを思い出し、
引き出しに手をかけた。
そこには一冊のファイルが入っていた。
僕はそのまま手に取り、母のいる病室へと走った。
病院のベッドに母は寝ていた。手術は無事終わったようだ。
母は僕が持ってきたファイルを見て
「覚えてたんだね」と言いながら、少し泣いていた。
そのとき僕はそのファイルを初めて開いた。
それには、家族のために母が入った保険がまとめられていた。
そこに書かれた「受取人」の名前が、
僕と父になっているのを見て、
母の一番大切にしていたものが、自分たちだったと気が付いた。
「ありがとう」
母の無事と、秘めていた想いに涙があふれた。