今は伝わらなくてもいい でも守ってあげるから
「あぁ~あ。行く行くなんて言いながら、
結局今年も旅行行けないじゃん。」
「しょうがないじゃないか。仕事なんだから。」
「仕事仕事って・・・。
もうあの子も小学3年生なんだよ。
サッカークラブに行きたいって言ってるし。
そしたら旅行も行きにくくなってしまうんだからね。」
そういうやり取りをした後、
主人は何も言わず、普段どおり会社へ向かった。
あれから6年。
息子は中学校でもサッカーを続け、
総体に向けて頑張っている。
「気をつけて行ってくるんだよー。」
「うっせーなー。分かってるよ。」
「またそんな言葉づかいで。お父さん聞いたら怒るよ。」
「はいはい。」
主人が亡くなったのもこんな暑い日だった。
「鈴木様のご自宅ですか?」
突然病院に呼び出され・・・。
ぽっかり心に穴があいてしまった。
きちんとファイルを見返したのは、
一通り落ち着いたある日だった。
何もなく過ごせているのも、あの人のおかげ。
私に何かあったら、息子が困ってしまうわ。
中学生の息子にはなかなか伝わらないかもしれない。
今はそれでいい。
ただ何かあっても困らないように。
リビングの片隅にはきちんとファイルが置いてある。