・・・懐かしい母の手

・・・懐かしい母の手

・・・懐かしい母の手

仕事中に携帯が鳴った。知らない番号。
いつもなら出ないのだけど、なんだか胸騒ぎがした。

「・・・もしもし?」
すぐには事態が理解できなかった。

「どうしたの?」
と同僚の声。

「実家の母が倒れたって・・・病院から。
あ、実家って静岡で、遠いようで近くて、
近いようで遠くて・・・」
動揺して、意味の分からないことを口走っていた。

「早く行ってあげなよ!」

どこをどうやってたどり着いたのか、母のいる病院にいた。
ナースステーションで母の病室を聞くと、

「あ、良かった。娘さん?お母さんからね、
『娘が来たら渡してほしい』と頼まれてたの」
渡されたのは、オレンジ色のきちんとファイル?
母の保障の内容が記されていた。

裏表紙には短い文章
「娘には絶対に迷惑かけない!」
何これ?決意表明・・・!?
・・・っていうか、不安だったんだね。

眠っている母の手を、恐る恐る触ってみた。
懐かしい母の手。
遠い記憶が蘇る。

一緒に散歩した田舎道。
蓮華の花冠を作るのが得意だった母。

風邪をひいて苦しかった夜、
一晩中体をなでてくれていた。

産まれる前のお母さんのお腹の中にいるような、
ホっとする気持ちがした。

イライラして口答えした日、
思い切りひっぱたかれたこともあった。

それは全て母の手で、私はこの手に育てられて大人になった。

ごめんね。ずっと一人で寂しかったよね。
・・・退院したら一緒に暮らそう。




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