文字の横には  水滴がにじんだ跡があった

文字の横には  水滴がにじんだ跡があった

文字の横には  水滴がにじんだ跡があった

父がガンで亡くなった。
私が大学受験のときだった。

受験生である私に心配かけまいと、
父が亡くなってからも一度も涙を見せず、
母は毎日夜遅くまで働き、
私と妹はなんとか大学を卒業した。

私が結婚する時、母は私に言った。
「今まで一杯苦労かけてごめんね。幸せになってね。」

とオレンジのファイルを渡された。
「きちんとファイル」と書いていたが、
「入っている保険をまとめているだけでしょ」と
そのまま押入れにしまいこんでいた。

10年後、母も亡くなった。
「そういえば、なんか保険入ってたな」と
オレンジのファイルを開くと、受取人には、私と妹の名前。

どうすれば良いかよく分からず、
ファイルを作った店舗へ行った。

そこでスタッフの方から、言われた。
「お母様がこのファイルをお作りになられた時、こんなことおっしゃってたんですよ。」

『夫が亡くなってから、ずっと、子供たちに迷惑かけたから、
私に何かあった時は、迷惑かけたくない。
たぶん息子はよく分からなくて、ここに来ると思うから、
その時に伝えて。自分じゃなかなか言えないから。』

その瞬間、涙が止まらなくなった。
「そんなこと一言も言われなかったのに。」
私は急いで、家族の証券を取りに行った。

母が残したファイルの受取人の文字の横には、
水滴がにじんだ跡があった。

それは父が亡くなってはじめて
母が流した涙だったのかもしれない。




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