もう見ることができない 父の背中

もう見ることができない 父の背中

もう見ることができない 父の背中

父が死んだという知らせを聞いたのは、
子どもが産まれる1ヶ月前の出来事だった。

半年前からがんになったとは聞いていたが、
こんなに早く逝ってしまうなんて。

朝一番の新幹線で東京に帰り、
実感のないままに葬儀を終えた。

葬儀など一通り終わった頃、
「だいぶ前から覚悟していたけどね・・・」
と母が言った。

末期でもう助からないと医者に言われていたが、
「あいつも今大事な時期だから」
と強く父に口止めされていたらしい。

もう何年会ってないんだろう。
仕事に追われて両親をないがしろにしてきたことへの後悔と、

あの寡黙だった父の背中がもう見られないのだと気がついて、
涙があふれた。

母から「きちんとファイル」を受け取ったのは、
そんな時だった。

「お父さんからあなたに渡すよう、頼まれていたの。」

ファイルを開くとそこには、
私が受取人の生命保険と、これから生まれる息子にあてた学資保険、
そして余白にはまだ見ぬ孫に考えたであろう名前が何度も書き直され、

最後には「がんばれ!」と大きく書かれていた。

もう見れない父の背中は、
きちんとファイルにはっきりと写っていた。




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