待っててね 早く帰ってくるから

待っててね 早く帰ってくるから

待っててね 早く帰ってくるから

入院受付カウンターで手続きをする母は、いつもと変わらない。
それにならって、私もいつもの私でいる。

母が悪性リンパ腫と診断され、
抗がん剤治療を受けることになった。

手続きを済ませた母が
「個室にしてもらったよ。」
と言う。

「うん。」
私もうなずく。

やっぱり違う!いつもと違う!
「もったいない」が口癖の母が、個室なんてありえない!

そらそうや!ガンやで!ガン!
個室って最後だから・・・ってこと?

「ガン」の文字が、私の心をしめつけながら、
頭の中をぐるぐるする。

「家に帰って、これ持ってきてくれる?」
とメモを渡された。

家に帰って、メモに書かれたものを一つ一つ入れていく。
急いで、病室で待つ母に届ける。

台所で聴き慣れた曲が、病室に流れる。

「ありがとう。家にいるのと同じやわ。それとこれはね・・・」
とオレンジ色のファイルを見せた。

その内容を見て、私は個室にできた意味をようやく理解できた。
母が入っていた保険の給付で、
個室での治療ができるようになったのだ。

「はじめは私にこんなに保険かけるのはもったいないかなって
思ってたんだけどね。」

母が私の表情に気が付いて、語りはじめた。

「これでみんなにお金のことの迷惑かけずに済むし、
それに個室で落ち着いて治療に専念するから、
お母さんの気持ちの面でも、みんなに迷惑かけずに済むと思うの。」

こんなときにまで、母は家族のみんなを気遣っていたのだ。

「・・・早く帰ってきてね。」

私はそんな母が病気に負けるはずが無い。
確信して笑顔でそう答えた。




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