はじめての一人暮らしを 温かく見守ってくれているもの

はじめての一人暮らしを 温かく見守ってくれているもの

はじめての一人暮らしを 温かく見守ってくれているもの

いつも台所の棚に置いてあるオレンジ色のファイル。

「あれ何?」
小さい頃そう聞いても、母は笑って

「まだ内緒」
と答えるだけだった。

あれから15年。私の就職が決まった。
そして今日、この家を出て一人暮らしをする。

引越しの準備であわただしく、
朝から父や母とゆっくり話すことができなかった。

いよいよ家を出るとき、
まるでいつもと同じように出かけようとする私に母は、

「これ・・・持って行って。」
と袋を持たせてくれた。

母はあのときと同じように笑っていた。

その日の夜、片付けにひと段落ついた私は、
ふと母に渡された袋を思い出した。
(そういえばあれ、なんだろう・・・?)

袋の中には、あのオレンジ色のファイルが・・・。

中には、たくさんの保険がまとめられていた。
父のもの、母のもの、そして自分のもの。
そして中を見ている途中、ひらりと一枚の紙が落ちた。
母からの手紙だった。

「あなたに持っていて欲しくて・・・。
 安心して頑張ってね。」

なんとなく照れくさくて、
いつも出かけるのと同じようにあっさり家を出てきたんだけど。

この母の手紙をきっかけに、
抑えていた想いがあふれ出た。

(お父さんお母さん、今までありがとう。
 きちんと一人でやっていけるように頑張るからね。)

あのオレンジ色のファイルは、
一人で暮らす私のアパートの小さな台所の棚から、
私を温かく見守ってくれている。




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